2011年12月の 「Brosビジネス」へ下記の通り弊社の記事が掲載されました。 中国知的財産権・模倣品動向と対策 「一筋縄ではいかない営業秘密の守り方」 中国では現状として、有名・無名、一般向け・工業向け製品に関わらず、様々な製品・業界で知的財産権侵害の問題が発生しています。その予防策や対応策はというと、人事管理、情報管理、IT管理、販売や代理店戦略、広報広告、製品上の戦略や技術、知的財産権取得戦略、模倣品の調査と法的対抗など多方面の話題に及びますが、今回は一つだけその中でも、予防と対策の一番初めに考えられる、「社内の情報が外部へもれることによる被害、模倣」について触れたいと思います。 社内の情報が外部へ流出する事による問題は、営業秘密(中国語では「商業秘密」)漏洩などと呼びますが、その種類は技術情報である製造技術、図面等が流出する問題と、経営情報である契約情報、顧客リスト、経営戦略情報等が漏洩する問題などが考えられます。私共が過去携わった事のある調査においても、社内情報の漏洩や正規部品の工場からの不正横流しなどは、様々な場面で模倣品の製造や、その前触れとしての問題の発端となっている場合が多いようです。ここをしっかり管理しておく事で、模倣品や不正行為の防止や、その後の対策に非常に有利になる場合があります。 どのようにして漏れるのか 営業秘密は気をつけないと色々な場面で漏洩する可能性が潜んでいます。例えば、合弁相手から、最先端の技術を導入することを求められ、十分な影響の検討を行わないうちに、妥協して技術の提供を行ってしまった、合弁会社の工場が夜間や休日の管理を十分に行わなかったために、こうした時間に契約外の製品を製造・横流しする等の被害を引き起こした、従業員を日本で研修させたところ、同業他社に転職してしまった、現地子会社の従業員が毎早朝出社してコピーにより文書を持ち出した、中国の代理店に供与した真贋判定のノウハウが、模倣品製造企業に横流しされた、リバースエンジニアの困難化の考慮を欠いたサンプルや製品が分解されて成型品から金型が作成され、模倣品が製造された、など。特に営業秘密は従業員の転職等によって流出することが多く、中国では転職や独立が多いため、その分、営業秘密の保護が重要です。営業秘密が漏洩する可能性がある事項は大きく纏めると以下の通りとなります。 ①人を介したもの | A.従業員、退職者からの漏洩 B.日本法人退職者の中国への技術指導 C.従業員の引き抜き | ②契約によるもの | A.合弁・委託契約(合弁先・下請業者からの漏洩) B.技術供与(ライセンス)契約 C.共同研究契約 | ③組織形態の変更によるもの | A.出資・資本提携 B.友好的/敵対的M&A C.下請業者の海外企業との提携 | ④不法行為によるもの | A.情報記録媒体の窃取 B.現役従業員の情報漏洩 |
どのように防ぐか どのようにしてこういった漏洩を防ぐかという事に関しては、様々な方面からの対策がありますが、一番実効的なものは情報の管理方法の厳格化ということでしょう。つまり具体的に挙げると、 ◎ 一般情報と秘密情報を明確に区別する ◎ 機密情報には「厳秘」などと明確に表記する ◎ 施錠や監視カメラの設置などの厳重管理を行う ◎ コンピュータ・ネットワークへのアクセスコントロールを行う ◎ 重要データへのアクセスにパスワードを設定するなどの管理を行う ◎ アクセス記録が残るシステムを導入する ◎ 情報が記録されている媒体の廃棄を徹底する ◎ 退職者から営業秘密に関する書類やDVD 等の記録媒体を回収する ◎ 工場見学など部外者の施設内への立ち入りを制限する ◎ 重要な技術・製品はブラックボックス化して持ち込む などがあります。更には技術受入れ側や代理店の情報管理体制についても同様に問うべきでしょう。また社員、関連会社人員への営業秘密管理の原理原則を徹底周知させ、教育を行います。同時に雇用契約や秘密保持契約での防止対策や、コア技術に触れさせる人員を制限するなど人事面からの管理も必要かもしれません。 法的対応するには気をつけるべき条件がある 以上のような対策にも拘らず、情報漏洩がしてしまった場合、その対策を行うには下記のようなポイントがあります。まず流出の経緯、誰がどのような営業秘密をどうやって持ち出したかの調査が必要となります。その調査状況を基にして、どこまで対応するのか、つまり法的に対処するのか、話し合いのみで解決を図るのかなどを検討する事になるでしょう。次に法的手段を採用するのであれば、各法的手段の要件、手続の把握を行い、証拠資料の収集、弁護士との協議などが必要となる事もあります。ここではその詳細については触れませんが、法的対応するには気をつけるべき条件がある事のみを注意点として触れます。 営業秘密の不正な漏洩を法的に訴えるには、中国では反不正当競争法の商業秘密保護規定に拠る事になりますが、営業秘密がこの法律に保護されるための要件の一つに「秘密保持性」という事項があります。これは権利者、つまり御社が情報の秘密保持のために何らかの対策・措置を講じていることが立証されなければなりません。よって例えば御社の顧客リストが誰の目にも触れられるような場所で、コピーする事もたやすい状態で保管されている場合、この営業情報に対しては御社は営業秘密であると主張する事が出来なくなる可能性が高くなります。製品情報を関連会社に秘密保持契約も無く渡してしまうような場合や、新製品が関係者以外の人の目に触れるような建物の構造になっている場合、盗難予防措置がしっかり取られていない場合なども、同様に営業秘密が保護されない事態になりかねません。機密文書が明確に「秘」などと記されて管理されているかどうかも非常に重要なポイントです。その営業秘密に対して、適切な秘密保持措置を講じず、その情報が公衆の何ら制限く取得できる状態にある場合、秘密性を備えていないとみなされます。営業秘密侵害に関する訴訟では、秘密保持措置を講じている事実の立証が重要なポイントとなることがよくあります。 (引用参考:JETRO発行「模倣対策マニュアル」、経済産業省発行「技術流出防止方針」「営業秘密管理指針」) |