以下はその全文です。
製品別の模倣品傾向と対策②
前回のコラムでは模倣品に下記4つの製品・業界ごとに異なるビジネスモデルがある事を紹介した。今回コラムは、製品・業界によって異なる模倣品製造や販売方法の傾向があることを述べ、異なる傾向に対応した有効な模倣品対策があることを示したい。
(記:4つの模倣品ビジネスモデル)
① 低価格な製品や正規品より充実した流通網で消費者のニーズを満たしている製品
② ブランドへの憧れを手軽に満足させる製品
③ ブランドの認知度を利用したコピー製品、または、いわゆる山寨製品やパロディー製品
④ 購買者を騙して購買させる製品
(参考:模倣品ビジネスモデルと製品・業界の対応例)

① 低価格な製品や正規品より充実した流通網で消費者のニーズを満たしている製品
例えば海賊版DVD、CDやアニメ等のキャラクターグッズであるが、これら製品は消費者は購買をする際に初めから模倣品であると認識した上で、低価格であるという理由や、純正品よりも流通が整っている(店舗数が多く、商品の回転も早いなど)という理由から、購買している場合が多い。その場合の模倣品対策は困難を極める可能性が高い。対策としては消費者に模倣品より純正品を選んでもらえるような模倣品にはない価値、感動、安心などを提供する事が模倣品対策として根本的な効果がある。例えばメディア活用や店舗作り、店員と購買者のコミュニケーションなどを活用して正規品を購買する事自体に満足感を出すようにする仕組みや、正規品購買のみを対象とする特典、キャンペーンなどが考えられる。
また法的手段としての摘発などの対策では、この手の模倣品は街のあちこちで、こそこそと小規模に販売されている上、特に海賊版DVDの製造工場などは他の業界の模倣品工場と比較しても非常に探し出しにくい傾向がある。それに対する現実的な対策は、まず販売市場で商標権で対策を行う事が効率的である、ただし、例えばDVDなどはその権利者の権利関係が複雑多岐にわたる事があり、権利者の数が多数存在する。このため、街中の小さな店舗を摘発した程度では権利者企業1社あたりの侵害品は多くなく、1社のみでの費用対効果が低く、模倣品対策や調査が行ない難い。こうした事例には、企業連合で共通の商標権を取得し、1度の摘発で効率的にすべての模倣品を一斉に摘発出来るようにする取組みが効果的と考えられる。
② ブランドへの憧れを手軽に満足させてしまう製品
これは例えば時計やバッグ、靴やアパレル製品などであるが、消費者は購買をする際に模倣品でありそうだ、若しくは模倣品であると認識した上で、低価格を理由に購買している場合が多い。その為、外観は似ているが品質、耐久性などの悪い模倣品が流通する事によりブランド価値に傷をつけられる可能性がある。
よって消費者への情報発信や啓蒙活動として模倣品にはない価値、寿命が長い事、壊れにくい事などをアピールすることが重要だ。こうしたことを通じて、ブランドのイメージや安心感を高める広告・広報を行い消費者の模倣品購買を防止したり、ブランドならではのアフターサービス、長期保障といった付加価値をつけることが模倣品対策の一手であると考えられる。
法的な対策としては商標権で対抗する事が主となり、特に中国では販売されていない製品名やロゴも気をつけて将来の不正登録を防止する為に登録を済ます事が必要である。万一模倣者に純正品の商標を横取りされてしまう様な事態になれば、挽回は非常に困難である。また、靴やアパレルといった製品は電気製品や自動車などの業界と比べ使用される部品点数がそれほど多くないため、模倣品の部品工場・製造工場が集中している可能性があり、丹念な調査を通した製造元の追跡や、税関データなどを使用した流通ルートの推測・分析などで模倣製造の上流過程を探る事も有効であるかもしれない。
③ ブランドの認知度を利用したコピー製品、または、いわゆる山寨製品やパロディー製品
これは携帯電話を筆頭に、パソコン周辺商品、ドライヤー、シェーバー、イヤホンなどの電器製品や、玩具、文具などの模倣品である。これら模倣品の近年の傾向として、商標権をはずしてきている場合が多くなってきた事が挙げられる。つまりデザインや色づかいなど権利化されていない部分を模倣する製品が見受けられるようになってきた。
これらへの対策は、やはりメディアや広報を通した消費者啓蒙活動も重要である一方、ことさら製品自体の品質や顧客価値の継続的な向上が肝要である。実はこの手の山寨製品やパロディー製品は長期的にはまっとうな競合他社に変化する恐れがあり、既存のブランド企業はその点を長期的な目線で考える必要がある。よって消費者の商品に対する感覚の定期的調査や、競合企業調査・市場調査を通し、代替品の実力を測る事が有用である。また展示会での調査も有効・効率的である。類似意匠権なども行使し模倣者へ「手ごわい相手」と認識させる事や、模倣企業と話し合いの場を持つ、業界全体で相手国業界団体へ働きかけるなども一手である。
もちろん商標権などをそのまま模倣したデッドコピー品が依然多いことも事実であり、これらに対しては工場・市場の定期的な摘発を通してブランドオーナーとして毅然と模倣品阻止のメッセージを送り続けることや、正規代理店の管理・監視のために代理店の抜き打ち検査、摘発する事なども検討できる。
④ 購買者を騙して購買させる製品
これはタバコ、酒、食品、薬、化粧品など食べたり、体につけたりする製品、または同様に安全面の考慮から自動車部品、電池などの業界で購買者を騙して購買させる模倣品が多い。
これら業界では質の悪い模倣品が流通する事によりブランド価値に大きく傷をつけられる事、それを使用した消費者が安全面、健康面などで被害を受ける可能性がある事を第一に考えるべきであろう。
対策方法はいくつか考えられるが、消費者啓蒙を行なうと同時に、消費者が購買時に模倣品の真偽鑑別できる仕組み(ホログラムシールや真偽鑑別ツールの添付など)があると、まず「騙されて購買する」という被害が減少し、効果的であると考えられる。またメディアを通じ、消費者には模倣品の劣悪さを、販売代理店にはブランドオーナーが模倣品撲滅に努力している事をアピールすることが大切だ。同時に、模倣品の正規代理店での販売が無いかなど管理・監視する作業、市場の定期的な摘発、模倣品製造根源の追跡と摘発などを行なうなどして、市場側から模倣品を排除し、製造側にも作り難い土壌をつくりだす「サンドイッチ作戦」が有効であろう。模倣品販売が多い地域やよく模倣されている製品を調査し、そこに重点を置いた戦略的対策も必要となってくるかもしれない。模倣業者や模倣ルートのブラックリストを作成し、それを企業の垣根を越えて情報共有する、もしくは税関など政府機関と共有し、有効活用を行うことも重要である。同時に政府当局への真偽鑑定手法のセミナーや対策を要請する事も必要であろう。また長期的には消費者が純正品を求めやすい市場を作る為に正規販売ルートの整備が重要である。
特にベアリング、電池、LEDなど工業製品・部品などの業界では形状・規格が統一されている為、単独の模倣企業が複数ブランドの模倣品を製造している場合が多い。その為、共同対策、つまり同業他社との共同調査、共同摘発などの取組みにより、少ない費用負担で、模倣業者に大きなダメージを与えられるような提携関係も有用である。
以上、非常に簡単ではあるが、異なる業界の模倣品傾向に対応した有効な模倣品対策があることの一例を示した。模倣品にはビジネスモデルがあり、それを良く知り、対策を検討する事が、重要である。
(引用・参考)
平成17年3月 経済産業省・特許庁発行「主要業種の特性に対応した海外模倣品対策の在り方に関する調査」
日経BP社発行「中国コピー商品対抗記」
(執筆・文責)
アライジェンスコンサルタンツ有限公司
知才商務咨詢有限公司
Alligence Consultants Co.,Ltd.
http://www.alligence.jp